そだてる

AI時代のエンジニア育成を探求する

AI時代

ジュニアエンジニアは不要か

青木大|2026. 09. 15

先に結論

  • 日本でジュニア不要論の根拠として最も引かれている2件は、原典と食い違っている。まつもとゆきひろ氏は不要論を危惧する側であり、SHIFTは採用を止めていない。
  • 米国の雇用データは「若手が解雇された」ではなく「採用が絞られた」を示している。しかも構造的な変化か景気の循環かで、調査機関の見立てが割れている。
  • 減らす側と増やす側が同時に存在する。この媒体は、ジュニアを育て続ける会社が次の10年の技術者を持つという立場を取る。

「AIがコードを書くのだから、ジュニアエンジニアはもう要らない」。2025年から2026年にかけて、この主張を前提にした記事が国内外で増えました。採用を絞った会社の報道もあります。

一次情報まで遡って確かめました。結果として、日本でこの論の根拠として最も引かれている2件が、どちらも原典と食い違っていました。

よく引かれる2件が、原典と違う

まつもとゆきひろ氏は、不要論を危惧している側です

@IT に2026年1月26日に載った記事は、「ジュニア不要論の先に広がるIT業界『焼け野原』」という見出しで広く読まれました。週間ランキングの1位にもなっています。

この記事を根拠に「Rubyの作者もジュニア不要論を認めた」と書かれることがありますが、逆です。 まつもと氏は、AIがコーディングを肩代わりして若手が経験を積む場が消えることを危惧しています。記事中の発言はこうです。

「『ジュニアはいらない』って切っちゃうと、シニアが退職した後、一体どうなっちゃうの」

そして、暗黙知を言語化して下の世代へ渡すことがAI時代のシニアの責任だと述べています。

もう一点あります。「焼け野原」はまつもと氏の言葉ではありません。 記者の地の文です。本文は「知識の継承が途絶えた先にあるのは、技術的な空洞化、すなわち『焼け野原』だ」と記者が書き、そのあとに氏の言葉を引いています。氏の発言としてカギ括弧で引くと、原典と食い違います。

なお、この記事に統計的な数字は一つも出てきません。基調講演を受けた単独インタビューであり、調査記事ではありません。

SHIFT は採用を止めていません

「SHIFT、440人の採用ストップ」という日経ビジネスの見出しも、根拠としてよく引かれます。

SHIFT 自身の説明を確認しました。2026年7月15日の決算説明会の書き起こしで、取締役はこう述べています。

「単純に売上が増えたから人を増やすではなく、AIの時代に対して必要な人材を選定しながら」

エンジニアについては、ハイエンドとプロジェクトマネジメントができる人材を中心に採る方針だと説明しています。営業人員は前年同期の161名から181名へ増えています。止めたのではなく、採る層を変えたというのが自社の説明です。

そして「440人」という数字は、同社のIR開示に見当たりませんでした。 採用計画の削減幅なのか、募集を止めた枠数なのかも特定できません。取材ベースの数字として扱うべきで、事実として引くべきではありません。

さらに重要な事実があります。SHIFT は採用を絞りながら、新人研修を厚くしています。 2026年度は364名の新卒に研修を実施し、入社式の翌日にはPCも業務知識も使わせない日を設けて「考える力」を先に鍛えています。プロンプトの技術より前に、AIは答えを作れるが問いは立てられないという前提を共有するためです。

絞った会社と育てる会社は、二分できません。

数字は何を示しているか

国内の統計から見ます。リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査によると、2027年3月卒の情報通信業の求人数は35,800人で、前年から900人、2.5%の減少です。倍率は1.62倍で2年連続の低下でした。

ただし注意が要ります。この調査はAIを要因として一言も挙げていません。 減少の背景として書かれているのは、前年の採用計画に対して実績が過少だった企業が予定数を減らしたことと、中途採用の割合を増やす意向です。また減少業種は情報通信業だけでなく、製造業、流通業、サービス業も含みます。建設業と金融業は増えています。

海外のデータのほうが、AIとの関係を直接に扱っています。スタンフォードの Digital Economy Lab が2026年8月に出した改訂版によると、ADPの給与データで、22歳から25歳のAI曝露度が高い職種の雇用は、曝露度の低い同年代と同じ伸びだった場合の基準より19%下にあります。2025年7月時点のデータでは15%だったので、差は広がっています。

ここで最も誤読されやすい点を書きます。これは「AIが若手を解雇した」ではありません。 論文が明示しているのは、離職が増えたのではなく採用が絞られたということです。著者自身も「因果推定ではなく記述的な早期指標」と書いています。

求人の側では、Indeed Hiring Lab が2026年7月に出したデータがあります。米国の全業種で見ると求人の46%が entry-level ですが、ソフトウェア開発だけは entry が4.5%で、senior が69.3%です。 分析対象の業種の中で最も低い比率でした。

解釈は割れている

数字が出ていることと、その意味が定まっていることは別です。

| 見立て | 誰が | 内容 | |---|---|---| | 構造的 | Burning Glass Institute(2025年7月) | 若い大卒の雇用悪化は景気循環ではない。AIによる専門性の地殻変動と大卒の過剰供給が重なった | | 循環的 | Oxford Economics(2026年1月) | AIを理由にした解雇は少数。AIが大規模に代替しているなら生産性が加速しているはずだが、していない |

結論が逆です。どちらかが正しいと決められる材料は、まだありません。

大手テック企業の発言も割れています。Amazon の Andy Jassy は2025年6月のメモで、生成AIとエージェントによって数年でコーポレート従業員の総数は減ると書きました。ただしそのメモに新卒やジュニアへの言及はありません。 Meta の Mark Zuckerberg が2025年1月に語ったのは「mid-level engineer 相当でコードを書くAI」であって、junior ではありません。

一方で、増やしている会社もあります。

| 会社 | 時期 | 内容 | |---|---|---| | Alphabet | 2025年6月 | 2026年に入ってもエンジニア数は現在の基盤から増やすと明言 | | IBM | 2026年2月 | エントリーレベル採用をソフトウェア開発者を含めて3倍にする | | Cognizant | 2026年7月 | 2026年末までに米国で大卒1,500人。2025年以降グローバルで約27,000人のキャンパス採用 |

同じ人物の発言が変わった例もあります。Salesforce の Marc Benioff は2025年2月に「今年は新しいエンジニアを雇わない」と述べましたが、2026年4月には、生産性は約30%上がったが100%ではない、モデルは自律運用できない、AI企業自身が大量にエンジニアを募集しているのが証拠だ、と語っています。

日本では、業界で一緒に育てる動きが出ている

日本CTO協会の「新卒エンジニア合同研修」は2024年に始まり、2026年で3年目です。背景としてリリースにこう書かれています。

「近年では、新卒採用活動自体を見送る企業も増えています」

スタートアップや中小企業では採用コストに加えて育成コストが重く、新卒採用そのものを見送る企業がある。だから会員企業から講義を集めて、企業横断で育てる。2026年度は講師企業8社と会場提供6社で、定員は100名です。

数字の扱いに注意が要ります。回数と提供社数の定義が年ごとに違うので、そのまま並べて比較できません。 参加人数が公表されているのは2026年度の定員100名だけで、これは定員であって実績ではありません。2026年度から参加要件を明確化して定員を設けたので、拡大ではなく絞り込みの変更です。

この研修に2026年度から OpenAI Japan による Codex のハンズオンが入りました。育てる側もAI前提に移っているという事実として読めます。

この媒体の立場

以上を踏まえて、賭けを書きます。証明された事実ではありません。

ジュニアを育て続ける会社が、次の10年の技術者を持つと考えています。

理由は三つです。

  1. 若手は自然発生しません。 新卒採用は入社まで1年から2年のラグがあります。止めた判断の結果が見えるのは数年後で、そのとき戻すにもまた数年かかります。
  2. AIの出力を判断できるのは、基礎を持っている人だけです。 entry-level の求人が4.5%まで減ったソフトウェア開発で、では10年後のシニアはどこから来るのか。この問いに答えている主張を、まだ見ていません。
  3. いま各社が公開している研修の記録は、育てることをやめていないことの証拠です。 44社の索引を作って分かったのは、2026年度も研修を実施し、その内容を公開している会社が相当数あるということでした。

反論として置くべきもの

この立場に対して、成り立つ反論を書いておきます。

  • 人数の問題ではなく密度の問題だという反論。 10人採って薄く育てるより、3人採って濃く育てるほうが結果が出るなら、採用を絞ることは育成の放棄ではありません。これは有力な反論だと思います。
  • ジュニアの定義が変わるという反論。 AIを前提にした働き方では、いわゆるジュニアの仕事が消えて、最初から設計と判断を担う役割になるのかもしれません。その場合、必要なのは「ジュニアを採ること」ではなく「入り口の仕事を作り直すこと」です。
  • 数字がまだ足りないという反論。 その通りです。スタンフォードの論文は記述的な早期指標であり、解釈も割れています。

この媒体は、反対の立場の人にも書いてもらいます。数字が賭けを否定したら、それも書きます。

読んだ人が決めること

  • 自社は採用を絞るのか、育て方を変えるのか。SHIFT のように両方を同時にやる選択肢もあります。
  • 絞るなら、10年後のシニアをどこから連れてくるのか。中途で採るなら、その人はどこで育つのか。
  • 育てるなら、AIがある前提で何を手で書かせるのか。AIを新人に使わせるか、使わせないかに、19社の実際の設計をまとめています。

出典について

この記事の根拠は、国内外の一次情報に遡って確認しています。原典まで遡れなかった数字は使っていません。使えなかったものの例を挙げます。SHIFT の「440人」、日経ビジネスと日経クロステックの有料部分、東洋経済の記事本文(リード文がAI生成だと明記されているため要旨としても引用していません)、Gartner の調査を伝える国内報道です。

主な出典は次の通りです。

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