そだてる

AI時代のエンジニア育成を探求する

AI時代

AIを新人に使わせるか、使わせないか

青木大|2026. 09. 15

先に結論

  • 方針を公開している19社のうち13社は使わせている。全面的に禁じている会社は1社も見つからなかった。
  • 注目すべきは期間で分ける3社で、freeeは前半4週間を禁止して後半5週間を全力活用、TOKIUMは4日間の研修で配ったうえで次の研修では封印する。
  • 禁じているのは「AIに触れること」ではなく「自分で考える前にコードを出力させること」で、確かめ方は口頭のチェックに寄っている。

新卒エンジニア研修で生成AIをどう扱うかは、いま研修を設計する人が最初にぶつかる問いです。使わせれば基礎が身につかないのではないか。禁じれば現場に出た瞬間に浦島太郎になるのではないか。

この問いを検索すると、出てくるのはツールの使い方の解説です。IBM も Google Cloud も Microsoft Learn も、vibe coding とは何かを説明しています。新人にどう使わせるかを書いたものは、ほとんどありません。

そこで、各社が自分で公開した研修の記録を集めました。方針が一次情報から読み取れたのは19社です。

19社の方針

方針社数会社
使わせる研修中にAIコーディングツールを使わせている13社GMOペパボ、リクルート、サイボウズ、MIXI、クラスメソッド、ラクス、ニフティ、アークシステム、エクサウィザーズ、DeNA、クラウドエース、ジーニー、GMOインターネットグループ
期間で分ける時期によって使わせたり使わせなかったりする3社弁護士ドットコム、TOKIUM、freee
用途を限定使わせるが、用途を文書で限定している1社Speee
一部で扱う一部の講義でのみ扱う1社LINEヤフー
使わせる(詳細不明)使わせているが、範囲が記事から読み取れない1社メドレー

収録している44社のうち、方針が一次情報から読み取れなかった25社は不明としています。

分類はこの媒体が各社の記述から判定したものです。判定の根拠になった原文は、それぞれの企業のページに出典つきで載せています。記述が見つからなかった25社は不明としました。不明は「使わせていない」ではありません。

まず分かるのは、全面的に禁じている会社が1社も見つからなかったことです。2024年度までは「機械学習」だった講義を「生成AI」に置き換える動きが各社にあり(ニフティ)、2025年度には研修の目玉として据える会社まで出ています(GMOペパボの Vibe Coding 研修)。

もう一つ分かるのは、多数派の「使わせる」の中身がばらついていることです。ツールを配って自由に使わせる会社もあれば、用途を細かく決めている会社もあります。分類だけを見て自社の方針を決めると、この差を見落とします。

期間で分ける3社

いちばん示唆があるのは、時期によって扱いを変えている3社です。

freee は前半4週間を禁止して、後半5週間を全力活用にした

freee の2025年度の開発研修は3か月で、構成が明確に分かれています。

| 期間 | 内容 | AIの扱い | |---|---|---| | 前半4週間 | Webブラウザの自作 | AI禁止 | | 2週間 | 仮配属 | | | 後半5週間 | テーマ別のプロダクト開発 | AI全力活用 |

後半では全社展開している Cline を開発と仕様書の作成に使い、Cline rules と Workflows と Memory Bank をチームで運用しています。研修全体の目標を「配属後にAIネイティブ世代として新しい風を吹かせる」と置いたうえで、その前に4週間だけ手で書かせる。順序が設計されています。

弁護士ドットコムは中盤で解禁する

弁護士ドットコム の2026年度は約1か月半の研修で、中盤まで Claude Code などによる自動生成を禁じています。ただし AIへの質問は許可しています。 チーム開発の2回目から解禁し、そのあとに先輩エンジニアが実例を紹介する「AIを使った開発研修」を置く。

2025年度も学習目標に「開発系AIツールの効果的な活用方法」を掲げつつ、演習そのものは AI ツールを使わずに実装させていました。掲げる目標と演習のルールを分けています。

TOKIUM は配ってから封印する

TOKIUM は順序が逆に見えます。入社1か月目の全職種合同の全体研修で、4日間の Claude Code 研修を行い、受講者全員に Claude Code の Team プランを配ります。 エンジニア以外の同期が読書記録サイトや育成ゲーム付きのTodo管理アプリを作っています。

ところが5月からのプロダクト本部研修では「コーディングには Claude Code を使わないように」と指示が出ます。1か月かけて Rails で Todo アプリを作る研修です。

ここで大事なのは、全面禁止ではないことです。いきなりコードを書かせないラーニングモードを使うルールで、質問や勉強の壁打ちには使ってよい。そして全6段階のマイルストーンごとに、メンターと口頭で理解度をチェックします。

何を禁じているのか

3社を並べると、禁じているものが「AIに触れること」ではないと分かります。禁じられているのは、自分で考える前にコードを出力させることです。質問や解説は、むしろ許可されています。

これを最も明示的に書いているのは Speee です。2026年に公開した研修教材の中で、AIの利用を文書として定めています。

| | 内容 | |---|---| | 禁止 | コードの生成、課題の解答をそのまま出力させること、自分で考えるべき設計や実装の代替 | | 推奨 | コードリーディングの補助、概念理解の深化、比較と設計の思考補助、自分の理解の検証 |

そして位置づけを一文で書いています。AIは「実装者ではない、解説者・壁打ち相手である」。

この教材は GitHub で公開されています。リポジトリの説明は「AI時代にWebアプリケーションを低レイヤーから理解する、ジュニアエンジニア向け研修ガイダンス」で、Ruby で Socket から HTTP サーバを書き、WEBrick を読み、最後に CRUD アプリへ統合するまでの6段階です。学習時間の目安は96時間から144時間。

守れているかをどう確かめているか

方針を決めることと、守られているかを確かめることは別の問題です。ここで各社のやり方が分かれます。

口頭で聞く。 TOKIUM のマイルストーンのチェックで実際に聞かれた質問が公開されています。

  • localhost:3000/hello?name=xxx にアクセスしたとき Rails の中で何が順番に呼ばれるか
  • render と redirect_to は何が違ってどう使い分けるか
  • null: false は何のために書くか
  • rails server を実行すると何が起きてどこのプロセスが動くか
  • docker compose up で何が起きているか

理解が伴わないと再チェックになります。記事には、この設計のために 受講者が自主的に AI でのコーディングを縛る動きが起きたとも書かれています。ルールで縛るのではなく、確かめ方を変えることで行動が変わった例です。

危なさを体験させる。 リクルート は方針を「単なる効率化」ではなく「自身の学びの最大化」と置いています。2026年度の受講者の記事には、AIが生成したコードのリスクや脆弱性を演習で体感し、AIを「作業の代行にとどめず、理解力やデバッグ力を高める増幅器」として使う姿勢が書かれています。2025年度から「テキスト生成AI活用」講座を置き、心構えの講座にも「生成AIとの向き合い方」を足しました。

社内の制度で担保する。 Speee は全職種向けに Claude Code の試験制度を整えています。正答率9割で合格し、3回落ちると半年使えません。この教材と試験は社外には公開されていません。

決めるときの論点

以上を踏まえると、決めるべきことは「使わせるか、禁じるか」ではありません。次の3つです。

  1. 何を手で書かせる期間にするか。 freee は Web ブラウザの自作、TOKIUM は Rails の Todo アプリ、Speee は Socket からの HTTP サーバでした。共通しているのは、普段は触らない低いところを、時間をかけて書かせていることです。
  2. 禁じるのは生成か、質問も含むか。 弁護士ドットコムと TOKIUM と Speee は、質問と解説を許可しています。ここを分けずに「AI禁止」とだけ伝えると、調べものまで止まります。
  3. 理解しているかをどう確かめるか。 提出物では分かりません。口頭で聞くか、脆弱性を体験させるか、試験にするか。確かめ方を決めないと、方針は運用されません。

この記事は、各社が新しい年度の記録を公開するたびに更新します。

出典

この記事のもとになった各社の一次情報は、企業ごとのページに出典のURLつきで載せています。

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