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エンジニア研修に人材開発支援助成金をどう使うか:令和 8 年度の 3 回の改正と、見積もりの読み方

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先に結論

  • 「最大 75%」は事業展開等リスキリング支援コースの中小企業の経費助成率で、人材育成支援コースで正社員を研修するなら 45% です。どちらも 1 人あたりの上限があり、厚労省の事例集では 1 人 90 万円の新卒研修の経費助成が上限の 50 万円で止まっていました。e ラーニングは賃金助成が無く、令和 8 年 4 月 8 日からリスキリングコースでは 1 人 15 万円(中小企業)が上限です。
  • 令和 8 年度は、4 月 8 日に e ラーニングの上限が下がり、5 月 14 日から受講料の価格設定に関する疎明書が要るようになり、8 月 3 日からリスキリングコースでは DX 化・GX 化の訓練でもマナーや汎用的な内容が対象外に、e ラーニングが 1 人 1 年度 1 回までになりました。リスキリングコースと人への投資促進コースは令和 8 年度までの期間限定で、来年 4 月の新卒研修のある令和 9 年度に続くかは公表されていません。
  • 編集部の見立ては、助成率で研修を選ぶと、助成の条件に研修の設計が引っ張られるということ。先に助成なしで研修を設計して比べ、そのあとで当たるコースと期限を労働局に確かめる順にすると、制度が変わっても判断が崩れません。

来年 4 月の新卒エンジニア研修の見積もりを取る時期です。研修会社 3 社から見積もりを取ると、多くに「助成金で最大 75% 助成」と書かれています。けれども、その 75% を見積もりの金額に掛けた数字が、実際に戻ってくる額になるとは限りません。

この記事は、厚生労働省の原典(コース別の案内、令和 8 年 4 月 8 日と 8 月 3 日の変更点、疎明書の様式、活用事例集、不正受給の事案の資料)だけを根拠に、エンジニア研修での人材開発支援助成金の使い方と落とし穴を整理します。読み終えたあと、見積もりがどのコースに当たり、いくら戻りそうで、何を研修会社と労働局に確かめればよいかを、社内で説明できることを目指します。

運営元の株式会社 init も企業向けの研修を提供しています。そのため、この記事は研修会社を比べません。研修会社の案内に書かれた試算は、制度をどう読むかの例として 1 件だけ扱います。

先に、記事に出てくる言葉を短く説明しておきます。

見積もりに並ぶ「最大 75%」と原典の数字

「エンジニア研修 助成金」で検索すると(2026 年 10 月 10 日、編集部が確認)、広告も含めて上位 10 件中 7 件が研修会社の集客ページで、助成率を前に出していました。公的な原典は厚生労働省と JISA(一般社団法人情報サービス産業協会)のページだけでした。

一方、厚生労働省の制度のページは、冒頭に「『訓練経費』は無料になりません」「不正受給した事業主は公表されます!」という見出しを掲げています(厚生労働省)。事業展開等リスキリング支援コースの案内では、次のような勧誘に注意を呼びかけています(厚生労働省 詳細版、2026 年 8 月 3 日版)。

厚労省が挙げる勧誘厚労省の説明
受講料は実質無料のうえ、払った額以上に利益をあげられる助成金は払った訓練経費の一部を助成するもので、利益が出ることは仕組み上あり得ない
訓練のあとのアンケートの協力金で実質無料になる負担額を減らしたものとみなし、経費助成の対象外
紹介された会社への営業協力の対価を訓練経費に充てられる同じく経費助成の対象外
AI 研修と AI ツールの導入をセットで申請できるAI 研修の費用は対象経費だが、AI ツールの導入費用は対象経費ではない

背景には実際の事案があります。令和 7 年 12 月 19 日、30 の労働局が、訓練会社から資金の提供を受けて訓練経費の支払いに充てていた 191 事業所・約 20 億円の不正受給を認定し、訓練会社名を公表しました。厚労省の資料は、その訓練会社が不正のスキームを考案して事業主に提案していたと書いています。期限までに全額を返さなかった 42 事業所(未返還は約 5 億円)は、令和 8 年 2 月 13 日に事業主名を公表されました(厚生労働省 労働政策審議会人材開発分科会の資料、2026 年 2 月 24 日)。

研修担当から見ると、見積もりには高い助成率が書かれ、制度の原典は無料にはならないと書いている状態です。この記事では、そのずれがどこから来るのかを原典で確かめます。

見積もりと支給額がずれる理由

ずれは、見積もりの外にある条件から生まれます。原典で確かめられたものを 6 つ挙げます。

ずれの元原典に書かれていること
コースで率が違う「最大 75%」は事業展開等リスキリング支援コースの中小企業の経費助成率。人材育成支援コース(人材育成訓練)で正社員を研修するなら中小企業 45%・大企業 30%(賃金の要件を満たすと +15%)
1 人あたりの上限がある経費助成は受講者 1 人 1 訓練ごとに、訓練の時間数で上限が決まる(下の表)
e ラーニングは賃金助成が無いe ラーニングと通信制は経費助成だけ。リスキリングコースでは 4 月 8 日から 1 人 15 万円(中小企業)が上限
数えない時間があるマナー、自社の経営方針や社内制度の説明、自社製品の説明、自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明などは、カリキュラムの一部に入っていても、その時間を訓練時間から除く
会社の規模の区分情報サービス業の中小企業は、資本金 5,000 万円以下または常時雇用の労働者 100 人以下
全額を負担していること支給申請までに訓練経費の全額を払う。返金や協力金で実質の負担が減ると経費助成の対象外(賃金助成は対象になり得る)。助成金の有無だけで変わる受講料の差額も対象外

1 人あたりの経費助成の上限は、コースによって次のとおりです(令和 8 年度、受講者 1 人 1 訓練あたり)。

訓練の時間数リスキリングコース 中小企業リスキリングコース 大企業人材育成訓練 中小企業人材育成訓練 大企業
10〜100 時間未満30 万円20 万円15 万円10 万円
100〜200 時間未満40 万円25 万円30 万円20 万円
200 時間以上50 万円30 万円50 万円30 万円
e ラーニング・通信制一律 15 万円一律 10 万円標準学習時間が決まっていないものは一律 15 万円(10〜100 時間未満の区分)。決まっているものは時間数の区分同じく一律 10 万円。決まっているものは時間数の区分

出典はリスキリングコースの案内(2026 年 4 月 8 日版)と人材育成支援コースの詳細版(2026 年 8 月 3 日版)です。人材育成訓練の e ラーニングは、標準学習時間が決まっているものを除いて 10〜100 時間未満の区分になります。

賃金助成は、リスキリングコースが 1 時間 1,000 円(大企業 500 円)、人材育成訓練が 1 時間 800 円(大企業 400 円。賃金の要件を満たすと 1,000 円・500 円)です。所定労働時間の中で受けた時間だけが数えられます。

数えない時間について、もう少し書きます。人材育成支援コースとリスキリングコースの詳細版は、助成の対象にならない OFF-JT として、「接遇・マナー講習等社会人としての基礎的なスキルを習得するための講習」、自社の経営方針や部署の事業の説明、社内制度・組織・人事規則の説明、自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明、自社製品の説明、意識改革研修などを挙げています。カリキュラムの一部に含まれる場合も、その時間は訓練時間から除き、除いたあとで 10 時間以上が必要です。人材育成支援コースの詳細版には、マナーなどの「職業人として共通して必要となるもの」について注が 2 つあります。「OFF-JTの実訓練時間数に占める時間数が半分未満である場合には、助成対象となります。」と、「訓練コースが認定職業訓練である場合に限り、助成対象となります。」です。認定職業訓練でない研修では、マナーなどの時間は数えません。リスキリングコースの詳細版には、この注は見当たりませんでした。

エンジニア研修での違い

エンジニア研修は、ほかの職種の研修と比べて、次の 4 つの点で制度の条件にかかりやすくなります。

e ラーニングと定額制の比重が大きい。 編集部の見立てですが、プログラミングやクラウドの学習には、動画の講座や定額制(サブスクリプション型)の学習サービスを使う研修が少なくないと考えています。e ラーニングは賃金助成が無く、上限も一律です(人材育成訓練では、標準学習時間が決まっていないもの)。定額制は人への投資促進コースで中小企業 60%・大企業 45% の経費助成になり、上限は受講者 1 人 1 か月 2 万円です。4 月 8 日からは、修了した講座の標準学習時間が 10 時間以上の人だけが対象になりました。改正前は 1 時間以上の人が対象で、全員の合計が 10 時間以上なら足りていました(厚生労働省 4 月 8 日からの変更点)。

新卒研修に、数えない時間が混ざりやすい。 これも編集部の見立てですが、新卒研修では、ビジネスマナー、会社の事業や組織の説明、自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明を、技術の研修と一緒に組むことが多いと考えています。そうした研修では、前の章の「数えない時間」がそのまま当てはまります。

IT の分野だけのメニューがある。 人への投資促進コースには、IT 分野が未経験の人を即戦力にするための「情報技術分野認定実習併用職業訓練」(OJT と OFF-JT を組み合わせる。中小企業で経費 60%・賃金 1 時間 800 円・OJT 実施助成 1 人 20 万円)と、ITSS や DX 推進スキル標準のレベル 3・4 となる訓練などの「高度デジタル人材訓練」(中小企業で経費 75%・賃金 1 時間 1,000 円)があります(人への投資促進コースの案内、2026 年 4 月 8 日版)。情報技術分野認定実習併用職業訓練の対象は、訓練開始日に 15 歳以上 45 歳未満の人です(人への投資促進コースの詳細版、2026 年 8 月 3 日版)。厚労省の事例集にある新卒向けのインフラ研修は ITSS レベル 2 の内容で、リスキリングコースを使っていました。

研修を内製すると、経費の対象が狭くなる。 自社で研修をする場合(事業内訓練)、対象になる経費に挙がっているのは、社外の講師の謝金(1 時間 1 万 5 千円が上限)と旅費、会場や備品の借上費、教科書などです。社内の講師は、職業訓練指導員の免許、1 級の技能検定、その分野の 10 年以上の実務経験のどれかが要件です。事業内訓練は通学制と同時双方向の通信に限られ、e ラーニングは対象になりません(人材育成支援コースの詳細版)。4 月 8 日からは、親会社・子会社や代表者の親族など、会社と密接な関係にある相手との間の訓練の経費も対象外になりました。

令和 8 年度の 3 回の改正

令和 8 年度の主な変更を、どのコースにかかるかで並べます。

日付何が変わったかかかるコース出典
4 月 8 日e ラーニング・通信制の 1 人 1 訓練の経費助成の上限が、中小企業 30 万円から 15 万円、大企業 20 万円から 10 万円に。時間数にかかわらず一律で、通学制や同時双方向の訓練と組み合わせた場合も同じリスキリング変更点
4 月 8 日定額制は、修了した講座の標準学習時間が 10 時間以上の人だけが対象に人への投資促進・リスキリング同上
4 月 8 日会社と密接な関係にある相手との間の訓練の経費は経費助成の対象外に全コース同上
5 月 14 日「受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第 28 号)」の提出が必要に。計画届を出した時期を問わず、5 月 14 日時点で支給申請していないもの、支給申請はしているが支給決定または不支給決定が出ていないものが対象全コース(制度のページのお知らせ)制度のページ
8 月 3 日DX 化・GX 化の訓練でも、職務に間接的に必要な知識の訓練と、職種を問わず職業人として共通に必要なもの(マナー・リテラシー・概念の理解)は対象外にリスキリング変更点
8 月 3 日受講は同じ人で 1 年度 3 回まで、うち e ラーニング(ほかの方法と組み合わせた訓練を含む)は 1 年度 1 回まで。8 月 3 日以降に出した計画届の訓練から数え、年度は支給申請日で決まる。経過措置があるリスキリング同上

8 月 3 日の 2 つの変更は、リスキリングコースだけにかかります。人材育成支援コースの受講回数は、もともと 1 人 1 年度 3 回までです。

8 月 3 日の対象の線引きには、厚労省が例を付けています。「生成 AI を利用するために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練」は、特定の業務への具体的な適用を伴わないので対象外です。営業担当が生成 AI で商品提案書の構成案や文章を作る方法を学ぶ訓練は、具体的な業務に直結しているので対象です。「DX の概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練」も対象外の例に挙がっています。

疎明書は、事業主が労働局長あてに代表者名で出すものです。書くのは 3 点で、受講料を教育訓練機関から示された金額をもとに通常の取引慣行と社内の手続きで確かめて決めたこと、受講料の決定時と支給申請時のいずれの時点でも、同じ内容の他の講座と比べて助成金の有無による不合理な価格差があるとの認識はなかったこと、出す時点でもその認識がないことです(疎明書の様式)。リスキリングコースの詳細版は、助成金を申請する事業主には 30 万円、申請しない事業主には 10 万円という価格設定なら、差額の 20 万円は支給対象にならないという例を挙げています。不支給のときに 20 万円を返金する約束がある場合も同じです。

改正の理由を厚労省が説明した原典は、見つかりませんでした。

研修の形ごとに当たるコース

エンジニア研修でよくある形ごとに、候補になるコースを並べます。どのコースに当たるかは、最後は計画届を受け付ける労働局が判断します。表は原典の条件を研修の形に当てはめたもので、当たることを保証するものではありません。

研修の形候補になるコース経費助成率(中小企業・大企業)賃金助成(1 時間)気をつけること
新卒の通学制の外部研修(数か月)人材育成訓練45%・30%(+15%)800 円・400 円マナーや会社説明の時間を除いて数える。200 時間以上でも上限 50 万円・30 万円
同上で、DX 化や事業展開のための訓練と言える場合リスキリング75%・60%1,000 円・500 円事業展開等実施計画を一緒に出す。8 月 3 日からは DX 化・GX 化の訓練でもマナー・リテラシー・概念の理解は対象外(事業展開のための訓練では、もともと対象外)。令和 8 年度までの期間限定
新卒の OJT と OFF-JT の組み合わせ人材育成支援の認定実習併用職業訓練45%・30%800 円・400 円訓練開始の 30 日前までに実施計画を出し、厚生労働大臣の認定を受ける。OJT 実施助成が 1 人 20 万円(中小企業)
IT 分野が未経験の人の OJT と OFF-JT人への投資促進の情報技術分野認定実習併用職業訓練60%・45%(+15%)800 円・400 円15 歳以上 45 歳未満が対象。1 人 1 回まで。令和 8 年度までの期間限定
e ラーニングの講座(買い切り)人材育成訓練 / リスキリング45%・30% / 75%・60%なし上限は一律 15 万円・10 万円(人材育成訓練は、標準学習時間が決まっていないものだけが一律。決まっているものは時間数の区分)。リスキリングは 1 人 1 年度 1 回まで
定額制の学習サービス人への投資促進の定額制訓練60%・45%(+15%)なし上限は 1 人 1 か月 2 万円。修了した講座が 10 時間未満の人は対象外
応用情報技術者などの資格講座(ITSS レベル 3・4)人への投資促進の高度デジタル人材訓練75%・60%1,000 円・500 円研修の内容がレベル 3・4 に当たるかを確かめる
社内の講師による内製の研修人材育成訓練など(事業内訓練)コースの率コースの額対象経費は社外の講師の謝金・会場費・教科書など。社内の講師に要件がある。e ラーニングは対象外

出典は人材育成支援コースの詳細版、リスキリングコースの案内と詳細版、人への投資促進コースの案内です。通学制と同時双方向の訓練は、訓練の時間の 8 割以上を受けた人だけが支給の対象になります(e ラーニングは訓練期間中に修了することが要件)。年次有給休暇を与えて受けさせた訓練は、「訓練の実施に当たって適切な方法でないもの」として OFF-JT の助成の対象になりません。8 割の受講を数えるときも、受講時間に入れません。所定労働時間の外や休日に受けた時間は、賃金助成の対象になりません。

見積もりを助成額に換算する表

編集部の試算です。 見積もりの金額を、コースの率と上限に当てはめて換算しました。前提は、正社員が所定労働時間の中ですべての時間を受け、数えない時間が無く、賃金の要件による加算が無いことです。実際の支給額は労働局の審査で決まります。

1 行目は、厚労省の事例集にある実例です。情報サービス業の中小企業(53 名)が、新卒に 488 時間・3 か月の外部のインフラ研修(1 人 90 万円、税込み)を受けさせ、リスキリングコースで経費助成 50 万円(上限)と賃金助成 48.8 万円を受けました(厚生労働省 活用事例集、2025 年 7 月 2 日)。ほかの欄は、同じ研修を別のコース・規模に当てはめた編集部の換算です。

研修(1 人あたり)コースと規模経費助成賃金助成受講料の自己負担「75%」を掛けた額との差
通学制 488 時間・90 万円リスキリング・中小企業(事例集の実例)50 万円(上限)48.8 万円40 万円経費助成は 67.5 万円ではなく 50 万円
同上人材育成訓練・中小企業40.5 万円39.04 万円49.5 万円経費助成は 27 万円少ない
同上リスキリング・大企業30 万円(上限)24.4 万円60 万円経費助成は 37.5 万円少ない
同上人材育成訓練・大企業27 万円19.52 万円63 万円経費助成は 40.5 万円少ない
e ラーニング 60 時間・20 万円リスキリング・中小企業15 万円なし5 万円差なし(75% がちょうど上限)。1 年度 1 回まで
同上人材育成訓練・中小企業9 万円なし11 万円経費助成は 6 万円少ない

賃金助成は、受講料の自己負担を減らすものではありません。訓練中も払っている給与の一部が戻るものなので、表では受講料の自己負担と分けました。

短い研修では、戻る割合が大きくなることがあります。JISA の ICT カレッジは、自らの「データベースの基礎(2日間:13時間)」(79,200 円)を、中小企業の要件を満たす会社がリスキリングコースで受けた場合の助成額を、経費助成 59,400 円と賃金助成 13,000 円の計 72,400 円、負担 6,800 円と試算しています。支給を保証しない試算だと明記しています(JISA ICT カレッジ、2026 年 10 月 17 日に確認)。このページの改正の情報は 2026 年 4 月 8 日の分までで、8 月 3 日の変更は載っていませんでした。

e ラーニングと通学制を組み合わせた研修は、4 月 8 日の改正で大きく変わりました。事例集のもう 1 社(情報サービス業、37 名)は、受託開発から UI/UX の分野へ事業を広げるため、156 時間の研修と 72 時間の e ラーニングを組み合わせた外部研修(1 人 585,112 円)で、経費助成 438,800 円と賃金助成 156,000 円を受けました。賃金助成は e ラーニングを除いた 156 時間分です。これは改正前の事例で、4 月 8 日からは e ラーニングを組み合わせた訓練の経費助成の上限が一律 15 万円(中小企業)になっています。

来年 4 月の新卒研修で使う場合

来年 4 月に始まる新卒研修は、令和 9 年度の訓練になります。原典から言えることと、言えないことを分けます。

確かめたいこと原典から言えること
令和 9 年度もリスキリングコースと人への投資促進コースはあるかどちらも令和 4〜8 年度の期間限定とされている。令和 9 年度に続くかは、2026 年 10 月 17 日時点で厚労省の案内に書かれていない
人材育成支援コースはどうか期間限定とは書かれていない。令和 9 年度の率や上限は公表されていない。令和 8 年度の案内は 4 月 8 日に出た
計画届はいつまでに出すか原則は訓練開始日の 6 か月前から 1 か月前まで。新たに雇い入れた人だけを対象にした訓練で、雇い入れの日から訓練の開始まで 1 か月以内なら、訓練開始日の前日まで(人材育成支援コースとリスキリングコースの詳細版)
入社前の内定者を計画届の対象者の一覧に載せられるか案内からは確かめられなかった。労働局に確かめる
いつ支給を申請するか訓練が終わった日の翌日から 2 か月以内。それまでに訓練経費の全額を払っておく
訓練が 6 か月を超えるとき6 か月ごとに区切って、その期間の 8 割以上を受けていれば分けて申請できる。最後に訓練全体で要件を満たさず不支給になると、それまでの支給決定も取り消される(リスキリングコースの詳細版)

計画届を出す前に、職業能力開発推進者を選び、事業内職業能力開発計画を作って社員に知らせておく必要もあります。どのコースの案内も、これを最初の段階に置いています。

見積もりを受け取ったときのチェックリスト

編集部の提案です。 ここまでの原典の条件を、研修会社への質問と社内で確かめることに並べ直しました。効果を測った数字はありません。右の列は、校閲と読者が照らせるように、もとになった原典の条件です。

確かめること誰に聞くかもとになった原典の条件
見積もりの助成率は、どのコースのどの区分の率か研修会社コースごとに率が違う
1 人あたりの上限を当てはめた額はいくらか研修会社・社内時間数ごとの経費助成の上限
カリキュラムのうち、マナー・会社説明・自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明の時間は何時間か研修会社対象にならない OFF-JT
e ラーニングの部分はあるか。あれば何時間か研修会社e ラーニングの上限と賃金助成なし。リスキリングは 1 年度 1 回
助成金を使わない会社にも、同じ内容を同じ受講料で出しているか研修会社疎明書と、助成金の有無による価格差
不支給のときの返金、アンケートや紹介の協力金の約束はないか研修会社実質の負担の減額は経費助成の対象外
申請の書類の作成や提出の代行を、研修会社が報酬を得て行うと言っていないか研修会社申請の手続きの代行は社会保険労務士の独占業務
研修会社から渡された資料を一式残してあるか社内支給申請のときに教育訓練機関から提供された資料一式を出す
自社は中小企業の区分に入るか社内情報サービス業は資本金 5,000 万円以下または 100 人以下
計画届の期限と、訓練開始日に間に合うか社内・労働局6 か月前から 1 か月前まで(新たに雇い入れた人だけなら前日まで)
研修の時期は令和 9 年度か。当たるコースはその年度もあるか労働局期間限定のコース
出席の記録と、所定労働時間の中で受けたかの記録を残せるか社内8 割以上の受講、出勤簿・タイムカード・賃金台帳の写し

申請の手続きの代行は、社会保険労務士法で社会保険労務士の独占業務とされています。教育訓練機関などが報酬を得て申請書の作成や提出の代行をすることは禁じられていると、厚労省の詳細版は書いています。

企業の公開記録

この媒体の研修資料の索引に収録した 56 社の資料には、研修に人材開発支援助成金を使ったという記述は 1 件もありませんでした(2026 年 10 月 17 日時点)。検索でも、企業が自社のエンジニア研修に助成金を使ったことをテックブログや採用サイトで公開している例は見つかりませんでした。公開されていないことは、使っていないことを意味しません。

公開されている使い方の記録で見つかったのは、厚労省の活用事例集(リスキリングコースを使った 18 社、社名は伏せてある)です(厚生労働省 活用事例集)。情報サービス業の会社はそのうち 2 社で、どちらも上の章で取り上げました。ほかの業種にも、エンジニアを育てる訓練の例があります。

会社(事例集の記載)訓練時間経費助成・賃金助成
小売業(機械器具小売業)、中小企業 18 名自社内にシステムエンジニアを養成し、業務の自動化のアプリ開発などの事業を立ち上げるための事業内訓練(部外講師)。デジタルリテラシーの向上、IT コンサルタント養成、開発スキル12 時間219,900 円(3 名)・36,000 円
通信業、大企業 200 名社内 ICT 部門の強化のための「ハッキング技術コース」(外部の教育訓練機関)13 時間59,400 円・6,500 円
輸送用機械器具製造業、中小企業 229 名SQL の知識とデータベース構築のスキル(外部講師による事業内訓練)20 時間225,000 円・20,000 円
化学工業、大企業 8,000 名データサイエンティストの養成講座(統計学、機械学習、プログラミングなど)140 時間250,000 円(上限)・70,000 円

事例集で新卒の研修と書かれているのは、次のインフラ研修の 1 社だけです。

新卒のインフラ研修に使った会社(情報サービス業、53 名)は、社内のインフラの構築・運用の人材を育てるために新卒研修を計画していたところ、労働局からリスキリングコースを勧められたと書かれています。今後について「訓練費用の負担がかなり軽減されたため、次年度新卒者へも活用したい」と答え、時限措置と聞いているので使えるうちに従業員のスキルアップに活かしたい、とも書かれています。

編集部の見立て

ここからは編集部の見立てです。

助成率を先に見て研修を選ぶと、助成の条件に研修の設計が引っ張られると考えます。令和 8 年度の改正は、その引っ張りが効く場所を増やしました。

そこで、順番を逆にすることを勧めます。まず助成なしで、研修の目的・期間・形を決め、見積もりを比べます。そのあとで、決めた研修がどのコースに当たり、いくら戻るかを、上のチェックリストで研修会社と労働局に確かめます。この順なら、制度が変わっても研修の判断は変わりません。

反対の根拠もあります。厚労省の事例集の会社は、新卒研修の負担がかなり軽くなったとして次の年度にも使いたいと答えています。JISA の試算のように、短い研修では、受講料と賃金助成を合わせると受講料の 9 割を超える額が戻る場合もあり(受講料に対する経費助成は 75%)、「最大 75%」がいつも誇張だとは言えません。厚労省自身も、新入社員の教育に定額制(サブスク型)の研修サービスと助成金を使うことを勧めるリーフレットを出しています(厚生労働省、2025 年 5 月 14 日)。助成金を使うこと自体は、制度が想定している使い方です。編集部が勧めているのは、使わないことではなく、研修を決めてから使うことです。

うまくいっているかの測り方

編集部の提案です。 助成金を使った研修で残しておくとよい記録を挙げます。どれも支給申請に要る書類か、そこから作れるものです。

見るもの見方
見積もりの助成額と、実際の支給額の差研修ごとに並べる。差が大きければ、どの条件(上限・数えない時間・受講率)で減ったかを書き残す
受講者の受講率8 割を下回りそうな人を研修の途中で見つける。下回ると、その人は支給の対象にならない
計画届から支給決定までの日数次の年度の計画届の時期を決める材料にする
助成を除いた 1 人あたりの研修費助成の有無で研修を比べないための、研修そのものの費用
研修のあとの評価助成の有無と関係なく、配属先での立ち上がりを同じ問いで聞く

自社の研修がどのコースに当たりそうか、見積もりをどう読むかで迷ったら、相談の窓口で受け付けています。

出典

確かめられなかったこと: 令和 9 年度に事業展開等リスキリング支援コースと人への投資促進コースが続くか、人材育成支援コースの率や上限が変わるかは、厚労省の案内では公表されていません。4 月 8 日の e ラーニングの上限の引き下げと 8 月 3 日の回数の制限の理由を説明した原典は見つかりませんでした。入社前の内定者を計画届の対象者の一覧に載せられるかは、案内からは確かめられませんでした。8 月 3 日の改正の経過措置の中身(支給要領の 1402)は、この記事では扱っていません。企業が自社のエンジニア研修に助成金を使ったことを公開している例は、索引の 56 社にも検索にも見つかりませんでした。

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